"<引用>
『火の鳥』が語る生命の不思議さ
 それにしても、“生命”とは、何と不思議な存在なのでしょう。この大宇宙は星々の光に満ちているけれども、生命がある、生きるというのはむしろ不自然のようにも見えます。人間一人生きることが即喜びであり、楽しさにあふれ、生きる意味をしっかりと手中にできるならともかく、この世はその逆の事態があまりにも多すぎます。苦しみ悩み葛藤の果てに、意味を見つけることもできずに、あるいはそんなことを考えるゆとりさえなく、ただやっと生きて、あっけなく生きて、あっけなく死んでいくことさえある。
 無限の宇宙の片隅の銀河系の、そのまた辺境の太陽系。そしてガラスのように壊れやすい地球にあふれる生物。大宇宙から見れば、チリにも等しい存在が人間です。それでも、このチリは自分が生きていること、そして、やがて死ぬことを知っている-意識してしまったのです。ほかのすべての生物のように、無邪気に生き、死んでいけない“業”を背負ってしまったのです。
 だからこそ、人間はとどまることを知らない欲望の実現を目指しはじめました。より豊かにより幸福を求めて。
<後略>
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— 手塚治虫 「二十一世紀の君たちへ」